2007年-東南アジアの旅 (インドネシア-スクー寺院-チュト寺院-ボロブドゥール寺院)
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ホテルの出発時刻は午前7時、その前に朝食が賄われる。泊まっている部屋まで運んできてくれるから、とてもありがたい。チョイスしたメニューは、ナシゴレンセット。インドネシアと言えばナシゴレン。スパイシーかと思いきや、意外とさっぱりとしており、日本人の口に合う印象を受ける。一緒に付いてきた目玉焼きやキュウリ、クルプック(えびせん)も食べやすく、さくりとたいらげてしまった。紅茶も昨日のサービスのものとは違い、おいしい。なるほど、盆に大量に乗っている砂糖を自分好みに入れて飲め、ってことだったんだな。もちろん、砂糖を一切使わず紅茶を嗜んだ。
時間が来た。タクシーは既にホテルの前に停まり、僕と友だちを待っていた。人の良さそうなお兄さん、年齢は27歳と読む。さて、今日のプランをおさらいする。ホテルを出た後、スクー寺院に行き、観光の後チュト寺院へ向かう、そして最後はボロブドゥール寺院内にあるマノハラホテルで降車、というスケジュールだ。電車、およびバスを用いて安価に各寺院を回りたかったのだが、やはり時間がない。ここでも、超絶リッチな移動となった。ちなみに、お値段はタクシーを1日チャーターで650,000ルピア。おそろしく高額、でも距離にして250キロメートルの移動、友だちと割り勘すれば……、と思い自分を納得させる。日本円に換算したら、決して高くはないんだけどね。
まずは、スクー寺院。街並みを眺めつつ、ついうとうととしてしまう。そして、気付いたら寝てしまっていた。坂だ、上り道が急だ、夢と現の狭間で意識が脳に訴えかける。目覚めた時には、いよいよスクー寺院に着こうかという位置にまできていた。ずいぶん眠っていたらしい。窓の外を見やると、上り坂の終着点が感じられる、と同時に駐車場が現れた。タクシーは停まる。そしてインドネシア入国最初の寺院めぐりのスタートである。
駐車場から出たら道は一直線に山へ続いている。愛読書『地球の歩き方~インドネシア~』に、スクー寺院へ行くためにはミニバス終着駅から山道を20分ほど登る、と記してある。山道を登るのか、そう判断し、山へ向けて道を歩む。しかし、これが間違いだった。山道を歩けど歩けど寺院は見えてこない。距離にして、5キロメートルは歩いたころ、漸く判断した。この道はスクー寺院へ向かう道じゃない、タワマングまで続くタウ山麓のハイキングコース(という名のただの山道)だ、と。再び、悪路を戻る。どこがハイキングコースだ、大事な味方『地球の歩き方』記載の"香り立つ緑の茶畑と田園を見下ろして約2時間、最高のハイキングを楽しめる"が見事にぼやける。山道の入り口に舞い戻ったのが3時間後、ただの徒労、タクシーの運転手さんにスクー寺院の場所を聞こうと決める。ふと、駐車場の隣に何か寺院らしきものが在るのに気付く。……これだ、これがスクー寺院だ。民家の佇む中にまさか存在するとは思ってもみなかった。あまりの規模の小ささに騙された感も否めない。あらぬ先入観を抱いていた自分を恨みつつ、しかし気を取り直して寺院めぐりをすることにする。
スクー寺院はエロい。小学生なら間違いなく喜びそうな石造やレリーフが所狭しと並んでいる。歴史について何も知らず、そしてぶらぶら寺院を歩いている間も知ろうとせず、ただ寺院を直感だけで弄んでいた。全裸のガネーシャとか、インパクトの強いものが多く見ていて飽きない。また、雨季のためか、青空が見えなかったのが残念だった。それは、スクー寺院が見晴らしの良い場所に在るから。晴れた日に下界を見渡すと寺院とはまた別の感動を得られそうだった。そういえば、ハイキングコースも晴れていたら、また趣が違ったのかもしれない。いや、あの急勾配はやっぱり疲れるだけだな……。
スクー寺院を堪能した後、駐車場で待っていたタクシーに乗り込む。運転手さんは、とてつもなく遅れたことに対して気分を害している様子も無く、明るく次に行こうと言い放った。わだかまりは消え、気分一新チュト寺院へ向かう。チュト寺院へ向かう道は、スクー寺院へ向かう道よりも急だった。傾斜何度だよ! という道をぐんぐん上っていく。突然、霧が濃くなってきた。そう認識した数分後、視程は10メートルもなくなる。対向車がきたら間違いなくぶつかる、それくらいの視程。5メートル、白い闇が車体を覆い尽くす。寸分先はまさに闇、その中をタクシーは突き進み、不意に霧が晴れた。同時に寺院の駐車場が見えてきた。どうやら、雲の中を突き進んでいたらしい。遠くで雷鳴が轟いている。
チュト寺院は、天上界にあるからだろうか、とても幻想的な雰囲気を醸し出していた。参道を歩むにつれて、チュト寺院の全貌が明らかになってくる。スクー寺院よりもはるかに大きく、そして神秘的な印象を受けた。スクー寺院同様、亀の石造があり、ここでも"不貞"がひとつの象徴になっている。俄かに雷鳴が近づいてきた。そして、寺院を雲が一気に覆い尽くす。絵になる情景が広がったかと思った瞬間、大きな雨粒が寺院の石畳を打ちつけ始めた。空を見上げると薄灰色、雨の勢いは加速されていく。十数分後、小康状態になる、チャンスだ、先に駐車場へ向かっている友だちを追って、寺院の参道を駆け下りた。
無事にタクシーに乗り込み、本日の終着点、マノハラホテルへ向けて出発する。ソロ、ジョグジャカルタを超えて、ボロブドゥールに行く。距離は、約150キロメートル。大移動である。スクー寺院に至るまでに費やした体力のせいだろうか、案の定夢の世界へと誘われる。ガタガタと山道を進むタクシーの心地よい振動を糧にし英気を養う。ホテルに到着したのは、15時過ぎ。タクシーの運転手さんに別れの挨拶を交わし、早速チェックインを済ませる。予約していなかったため、もしかしたら泊まれないかも、と危惧していたが、意外なほど部屋はがら空きだった。ツインルームとサンライズツアー、合わせて573,500ルピア。高いと思うでしょう。いやいや、そんなことは無い。だって、ボロブドゥール内のホテルのため、入場料がホテルにいる間は無料なんだもの。ちなみに、ボロブドゥール入場料はひとり当たり1日11USドル。ふたりで2日分となると、44USドル、ルピアに換算して約400,000ルピア。サンセットツアーの経費をちょっとだけ差し引いてサクリと計算、ひとり当たり1泊800円くらいになるかな。リーズナブルだね、結構設備の整ったホテルでこの値段は。
荷物を置き、ホテルの部屋の良さに少し感動し、いざ行かん、ボロブドゥール寺院へ。さすが、世界遺産に指定されているだけある、むっちゃくっちゃでかい。広角デジカメのフレームに収まらないくらい。記念撮影をした後、寺院を肌で感じるべく、ペタペタ石碑を触りつつ頂きを目指す。なにやら、ガヤガヤと賑やかな音が近づいてくる。どうやら、現地の修学旅行生らしい。素晴らしいまでのハイテンション、年齢的に中学生くらいだろうか、テンションの高さは小学校低学年顔負けである。逆に純粋な印象を受け、微笑ましくもあった。そんな折、修学旅行生の女の子6人くらいに囲まれた。「Where are you from?」。なんともフレンドリー、軽やかに日本人だと伝える。たどたどしいながらも、英語でコミュニケーションを図り、最後は一緒に記念撮影した。なぜか、ひとりひとりと。たぶん、10枚くらいは撮ったと思う。超照れている女の子もいれば、スキンシップ大好きな女の子もいたりと一緒に撮っていてまったく飽きない。彼女たちにとっても、そして僕にとっても良い記念になったんじゃないかな、と思う(僕は確実に良い記念になった)。
陽が落ちようとし、一気に人が減ってしまったボロブドゥールで、僕は壁画をゆっくりと見て歩いていた。寺院との一体感がなんとも言えない。散らばった雲を見上げつつ、ゆっくりとホテルへ向かって歩を進める。1日が終わる、友だちとホテル内のレストランにて夕食を取る。ちょこまかとテーブルの下をうろつく猫をおちょくりつつの嗜好。味に申し分は無いが、ソロで楽しんだ庶民のレストランの方がおいしく感じられた。インドネシア料理もだいぶ馴染んできたな、と思いつつ部屋へ帰還、シャワーを浴び、身体を休める。明日はサンライズツアー。ロビーに4時集合だ。